小売業におけるDXとは

DXはゼロベースで戦略・戦術の再構築をし、企業の競争優位性という目的を達成する手段

DX(digital transformation)は、単純に「デジタルへの投資を拡大しよう…」という過去の延長線上にあるものではない。「デジタル変革」と翻訳されることがあるが、デジタルで何かが変わることのみが伝わるだけで、本来の意味を伝えきれてはいない。

Transformationが本来意味するところは、見た目だけでなく、その特性が変わってしまうことである。生物学的には形質転換であり、外部からDNAを取り込んだりすることで、個体の形質が変わる現象を指す。形質転換は突然変異とは異なり,与えられた遺伝情報に従って変化は決まった方向へ進む。
つまり、企業のゴールや方向性は不変でも、戦略・戦術に関して今までのやり方を捨てて、ゼロベースで再構築するレベルの変化を指す。
目の前に見えている課題である「紙の会議資料をPDFに…」といったデジタル化は着手しやすいが、大きな成果とはならない。ITなら何でもDXと言ってくるITベンダーが多いが、それに乗っかってもDXは成功しない。

また、DigitalもTransformationも目的ではなく手段である。DXは、企業の目的であるミッションを達成する手段として、デジタル技術やデータを活用することである。

DXとは

DXを一言で説明するならば

データとデジタル技術を活用して、製品・サービス・ビジネスモデルだけでなく、企業の仕組みや風土も含めた変革をし顧客や社会のニーズをもとに、競争上の優位性を確立すること」

となる。

2018年にDXのビジネス活用を推進するため、経済産業省が「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン(DX推進ガイドライン)」を策定した。ここにおけるDXの定義は以下の通りである。

企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。

https://www.meti.go.jp/press/2018/12/20181212004/20181212004-1.pdf

網羅的に本質を捉えた文章ですが、長さのせいでスッと頭に入るのは難しい。そこで目的と手段を整理したものが前述の言葉である。

デジタル化とDXの違い

「世の中のDXはデジタル化に過ぎないものが大部分である」という言説を多く目にする。
筆者も同感である。しかしながら、その解説が精神論になってしまっていてはいかがなものかということで違いを明記する。

デジタル化

デジタイゼーション(Digitization)は、既存のビジネスプロセスを、デジタル技術の導入によって効率化させることである。
例えば、紙ベースで行っていたデータ作成をオンラインベースに変えたり、ハンコを回していた稟議が稟議システム化されハンコが不要になるといったものが当てはまる。また、人の手で行っていた単純作業をルールに基づいて自動化するRPA(Robotic Process Automation:ロボティクスプロセスオートメーション)もデジタイゼーションの一つである。

デジタライゼーション(Digitalization)は、デジタル技術の活用により、製品やサービスに新たな価値を生み出すことである。
例としては、CDやDVDのレンタルサービスをサブスクリプションサービスにすることや、自動車や建物の所有をカーシェアやシェアオフィス化するシェアリングサービスとすることがある。

デジタルトランスフォーメーション(DX)

DXについては前述の通り、「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。」である。

目的と手段の明確化が、手段の目的化を防ぐ

デジタイゼーションの目的は「既存ビジネスの効率化」であり、目的を達成する手段として「デジタル技術の導入」を行う。

デジタライゼーションの目的は「製品やサービスの価値創出」であ利、目的を達成する手段として「デジタル技術の活用」を行う。

DXの目的は「顧客や社会のニーズをもとに、競争上の優位性を確立」する競争戦略であり、それを達成する手段として「データとデジタル技術を活用して、製品・サービスだけでなく、企業の仕組みや風土の変革」を行う。

図にまとめると下記のようになる。

DXとデジタル化の違いは目的と手段に整理するとわかりやすい

DX事例:Home Depot(ホームデポ)

デジタル化とDXの違いを世界最大のホームセンター企業Home depotのペンキ用スマホアプリで説明する。

玄関ドアのペンキを塗ろうとした時に、昔からカメラがあるものの現像の手間と費用がかかるため、記憶を元に店員に相談しながら近いと思われるペンキを買って帰るという購買体験であった。時には記憶違いで濃淡が著しく違うペンキを買って帰るということが起きていた。
スマホの時代である現代は、簡単に写真を撮って人に見せることが出来るため、写真を参考に店頭もしくはEC在庫から商品を選ぶという購買体験になった。大きく外すことは少なくなったが、必ずしもベストな色を選ぶことが困難であることは変わらない。
Home depotのスマホアプリProject Colorはアプリで写真を撮ると画像解析で近い色を提案される。ここで3つの優れた顧客体験を得ることが出来る。

  1. 店ではなく、ペンキを塗る場所で色が近いかどうか実物を見ながら確認出来る。
  2. 店頭にある在庫からではなく、ネットの豊富な品揃えからマッチした色と容量を簡単に選べる。(Home depotの店頭商品は3〜4万SKUだが、ネットには100万SKU以上の商品がある)
  3. 店頭には置いていないお試しサイズを購入して試し塗りすることが簡単に出来る。
Home Depot のProject colorによるDX

まさに「顧客のニーズをもとに、競争上の優位性を確立」した事例といえる。家の既存物にペンキを塗るというニーズにおいて、デジタル化に留まるホームセンターとホームデポのどちらが望ましいかは明白である。

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